実際に見たことはないのに 記憶にある風景

空が真っ赤に染まる夕焼けは、まさにクライマックスという感じで印象的です。

でも、夕方の空の美しさはそれだけかというと、違う気がします。青白かった空に少しずつ赤が差してきて、真っ赤に焼けたかと思えば、次第に深い青が下りてきて、最後は暗い夜になる。 流れる時間の感覚とともに、空の色と明るさの移ろいそのものが経験、記憶されたものが夕焼けの美しさの正体であるような気がするのです。

では、瞬間を切り取るのが得意なカメラは、その流れる時間の美しさを まるっと 収めることができるのでしょうか。繊細な変化の全体を捉えることができるのでしょうか。

ここにある写真は、数時間〜数日、数千〜数万枚撮影した写真を後からデジタル的に断片化し、端から時系列に“1ピクセルずつ”並べ直していくことで、例えば夕焼けの始まりから終わりまでといった、ある一定の長い時間をたった一枚で表現しています。スリットスキャンとタイムラプスという2つの手法を掛け合わせることにより「瞬間」ではなく「時間」を捉えることを可能とした、この新しい写真表現を『Slit Lapse』と名付けることにしました。

元となる写真の一枚一枚は ある一瞬 の記録ですが、その一瞬を無数につなぎ合わせることで、バラバラに分解されていた時間の流れが一枚の写真として再生されています。

完成した写真は、実際には見たことはないけど、なんだか知っているような、不思議な感覚の風景です。

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